fuwaffuのブログ

お日様ポカポカ生活日記

5月

5月の陽射しを遮るビルはなく、庭の緑が美しく光る。家族はいつも私が車に乗り、見送りのため玄関から出てきた時に全員そろう。車の前に並ぶお父さんとおばあちゃん。眩しすぎてクラクラとなる。

老いた両親と、物忘れが激しくなった祖母を置いて私は助手席に乗る。

祖母は少し赤く潤んだ目を細め、浮腫んだ手を差し出した。

泣かないでよ。

私はそう言いながら白いパンのような暖かい手を握った。

泣かないよ。元気にやるんよ。また帰ってきてね。

うん。おばあちゃんも元気で。

あと、どれだけこれを繰り返すのか。帰る度に毎回思う。これが最後かもしれないと。

そんなことをぼんやりと考えるだけで、寂しいとか泣いてしまいそうとかではない。涙は出てこない。ドラマのような感動の場面を冷めた目で見つめ、暖かい言葉を交わす。薄情な人間だと心の中で思う。暗い気分になる。

 


運転席にはいつも母がいる。実家から新幹線の駅まで車で送ってくれるのだ。酷く眠く瞬きが重く感じ、膝に乗せたリュックを抱えて目を瞑る。母は運転しながら、帰る時くらい、そんな不機嫌にならないでよとため息をつく。暗い声で、

私は生理と昨日眠れなかったためだと返事をする。性格のせいだと思うよ。昨日はせっかく楽しかったのに台無しじゃん。と母は言った。またか、やっぱり母は何時だって私に毒ずくじゃないか。と嫌な気分になった。自分でも何故こんなに眠くて暗くなるのかわからなかった。数年ぶりに車窓から見える田園風景は何年も変わっておらず感動を覚えなかった。一昨日まで大阪にいたのに、ずっとここに居たような気がした。何年も買い物や塾や旅行へ行くたびに見た景色。

 


あと何回。

私はこれを繰り返すことが出来るのだろうか。そうやって思うのを懐かしむ日は必ずやってくるとわかっているのに。私は見慣れた風景を眩しく感じながらそんなことを思うのだった。