麗らか土曜日
8時にセットした目覚まし。今日は朝からギター教室だから土曜日だけど早めに起きた。
ZARAのジャケットを着て、自転車でビューン登坂を下る。眩しい午前だ。
ハノンの早弾き。あ、できてるね。と言われ少し照れた。カッティング練習の後、新曲を託された。ユーミンの曲。聞いたことあるけど名前は忘れた。先生のお手本を真似ながらやるけど、いまいち出来なくて、ハハハ・・・と誤魔化す。先生も、うーんと苦笑いだった。
彼氏と待ち合わせる。彼氏はチャリで来てくれた。今日は暑い。ラーメンを食べた。塩白湯はまぁ普通に美味しかったけど、家の近くのラーメン屋の方が美味しい。昼下がり、向かいの公園に2人で腰を下ろす。葉っぱになりかけの桜が風に舞う。小さな子供たちがブランコや滑り台へ向かって一生懸命走る。きらきら眩しいほどの幸せな光景をボーッと見やった。俺ら、年寄りみたいだね。桜って生きてるうちに、あと60回くらいしか見れないんだよね。と、彼氏は言った。
その後は、無くなりかけの化粧水を買ったりした。日が暮れる頃、近所の公園に行った。最後の桜を見に行くはずが、人が多すぎてお堀のベンチで番のカモを見ながら唐揚げ弁当を食べた。一日中自転車に乗っていたから、足が臭くなった。
お風呂の中でシャワーを浴びる彼氏をずっとみていた。一緒にいるのにいてないような気がしたから、ずっと見ることで、存在を実感しようとした。
蟻5日目
昨日の夜、今日はテンション高いねーと彼氏に言われた。情緒不安定すぎて、自分でもビビる。
生理が終わったからかな。
今日も今日とて、気分が爽やかだ。外は暖かい。春は良い。
金曜日。居酒屋に行くつもりで昨日から行きたいところを調べていて、それが楽しみでベッドから体を起こした。
昼ご飯は、事務室が混んで、気を使うのが嫌だから公園に行った。昨日彼氏が作ってくれた野菜炒めと、白米をベンチに広げて食べた。鳩や、すずめが来た。
春の太陽は気持ちがいい。こんな日は、カネコアヤノがいい。
ベンチでふわふわしていたら、すぐに時間が来た。
蟻四日目
朝起きても疲労は残っており足はだるかった。昨日は特に疲れたことはしてないはずなのに、やはり久しぶりの仕事だったので体は気付かぬうちに頑張っていたのだろうか。
水曜日。私としては体感木曜日という感じ。
パンプスは履いてまだ4日しかたって無いのに、両足の薬指から血がでた。パンプス姿は見た目は綺麗だし、歩いていて気分が上がるが、痛いし足への負担が大きい。のになぜかスニーカーで行く気にならない。パンプスのおかげで今のところ社会人としての自分に酔えてる気がする。
今日は、応援として同年代の女の子がきた。チワワみたいな目とりわけ涙袋が特徴的な、色白の女の子。性格はサバサバしていて、物怖じせず、強気な感じが好印象だった。
自分には無いもの。仕事に慣れたらいつかは彼女のようになれるのだろうか。
17時半頃からなかなか時間が進まなかった。人の目を盗んでは時計ばかり眺めてた気がする。
手持ち無沙汰がばれたら嫌なので何かをやっているふりなどした。そういう時に限って、見破られて指示されるのだが。
店長に、〜は、伝えた方が良いのだろうか?など気に揉む時が1番疲れる気がする。迷惑だと思われないだろうか、常識外れなのだろうか、と、悩む時いつも、どこかに力が入ったような気分になる。
帰ったら、彼氏はまだ残業で、部屋は暗かった。簡単に作れる麻婆豆腐、野菜が足りてないので人参、キュウリで野菜スティックにした。
帰ってきた彼氏は思ったほど疲れてなかった。昨日不機嫌になってしまったので今日は気をつけた。
気づけば23時だった。
蟻三日目
初出勤。
朝起きて、おにぎりを2つにぎり、メイクをし、ベージュのセットアップを羽織る。窓ガラスに映るOLっぽい自分に心を躍らせながらパンプスのかかとを鳴らしながら地下鉄に乗る。
初めての職場。長い髪を巻いて、清潔にした女性が私の上司だ。綺麗で清潔なだけあってきちんとした性格だ。私の話もしっかり聞いてくれるし、怒鳴ったりもしないタイプだと思う。
休憩中に、前の職場について自ら話した。対等に見てくれていると思った。上司のスマホの待受はウエディングドレスを着て幸せそうな上司と旦那さんだった。
何をして良いのか分からない時は突っ立ってドギマギしていた。お客さんにみられたら文句を言われそうだと思うと、余計にドギマギしてすみません、ばかり言っていた。
出勤時間が遅いこともあり前のところよりも、疲れずに、慌ただしくもないのに時間が経つのが早く感じた。
今は先輩と一緒だが、いずれは自分一人で店にたつ。それが不安でしかない。
マンションのエレベーターに写った私は朝見た時と違って前髪もボサボサだし、額は脂ぎっていた。
ご飯作ってくれているかな?と期待して家に帰ると彼氏が、友達と電話していた。空っぽの鍋をみて私の中で何か制御が止まらなくなった。
彼氏はおかえり。と言って何やらずっと説明してきたが、正直どうでもよかった。うんざり、うっとおしいと思った。さっきまでびくびくしていたわたしはどこへ行ったのだろう。彼氏も私がイライラしているのを悟ったのがわかった。
仕方なしにコンビニで夜ご飯を買った。
食事中2人とも無言だった。正直こんなにお互い無言なのは初めてだった。こうやって仲は冷めていくのかなと思いながらナポリタンを箸ですすっていたら虚しくなった。
謝る気はなかった。どう接していいかわからなかった。私はどうしたいのかわからなかった。
働き蟻1日目
換気のせいでくっそ寒くて震えながら講和やらを聞いていた。一日中座っておしりが痛くなった。
1人で飲もーと思い切ってエレベーターに乗ったら、同期に夜ご飯に誘われたので一緒にもつ鍋を食べに行ったら誘ってくれた人、昔私が通っていた予備校の講師だった。
奇跡は起こるもんだな。縁ってすごいや。
関西人はよく喋り、私はただただ笑うばかりで気もきかぬし申し訳がなかった。
明後日は店舗で働くんだが大丈夫だろうかね?
退職日最終日の夜
初めて名古屋に来た。電車で隣におじさんが乗ってきて降りる時にこの人は退けてくれるだろうかと終始考えてどぎまぎしていた。
コンビニで適当に明日の昼食を放り込み、雨の中ホテルに向かった。寂しいからテレビをつける。つまんない番組ばかりだからすぐ消して、カネコアヤノをかけながら一人でカツサンドを食べた。
明日は新人研修なのだ。目覚ましをセットするのは久しぶりで、ちゃんと鳴るかどうか不安になる。シャワーを浴びながら、なぜか一人で生きていけるような気がした。これまでの55日間、もっと好きなように生きればよかったのかなとふいに思う。が、私は、書を捨て町にはでられない人間なんだと自分で納得してそれをするには私には向いてないことだったような気もする。
そもそも好きなようにとはなんなのか。ふらりと新幹線に乗って知らない土地へ行きホテルに泊まったりだとか、路地へ入り猫を追いかけたり、私が思い描く空想上の人物はきっといつか読んだ本やいつかみた映画の人物達が混合して生み出す幻で、不確かなものに憧れているに過ぎないのだ。きっと。
いつも何かに憧れているけど、私にみえる現実世界はいつも同じように映って退屈で、そうやって決めつけているから外に出るのが億劫になることがある。
空想世界を広げたい。みたこともないし、どこなのかもしらないのになぜか脳に浮かぶ青空や夕暮れ、公園、銭湯の写真を思い浮かべ、それらをずっと求めている。
きつくてつらい現実は空想世界をマスクして見えなくするから、私は混乱してすぐさまそっちへ行きたくなる。
"好きなことをしたい"が具体的になんなのか分からない。空想世界に近づく、もしくは創り出すために経験を蓄積したい。が正しいような。
私は今日をもって、夢想家活動をいったん控えめにします。朝起きたら働き蟻。
だけど私明日は、ぼけーっとするかも。ぼけーとなるのは無意識だからしょうがない。許してやって。自分をダメ人間だって思いたくないなぁ。でも大丈夫、そもそも君は蟻なんでしょ。ダメ人間じゃあないよ。
グッナイ夢想家。55日間も夢想家として生きることができて私はなんて幸せものなんだろう。
少しでも空想世界に近づけたかな。
退職55日目
彼氏と電車に乗り、桜を見に行った。お昼ご飯に天丼を食べた。値段の割にとても美味しくてしかも食べきれないほどの天丼。二人とも食べ過ぎて気持ち悪くなった。
胃もたれしながら空っぽの頭で桜があれば少しとまって上を眺めたりした。歩いて歩いて、疲れたなと思ったらもう私達は電車に乗り、眠っていた。
そして今スーツを着込んで新幹線に乗っている。彼氏は見送ってくれた。改札でバイバイ、ありがと!頑張ってくるねと泣きそうになりながら私が言うので、たった2泊3日なのに、大げさ!と笑った。実際寂しかった。どこでもいつでもずっと彼氏と一緒にいるため寂しかった。
私は今不安であるはずなのに、不安という嫌な感覚はなくて、正直なところするべきことのためにただ体が動いているだけで、心は空っぽだった。ただ、彼氏が近くにいないのが心細い。仕事することが他人事のように感じる。
研修に行けば、社会人に戻れるだろうか。